序章 勇者の旅立ちより引用
「5、4、3、2、1……」
携帯電話の時計を見つめていた少女、鹿原こるりがカウントダウンを進める。時計は丁度零時を指していた。
「ああ、第三回のアクション締め切りが終わってしまいました。折角早めに書いておいたのに」
「何の話?」
「PBMです。郵便で遊ぶゲームの」
こるりははあとため息をついた。...
薄暗い倉庫には、幾つもの武器や不思議な道具が並んでいる。こるりや唯たちは恐る恐る中へと入ってそれらを見渡した。
「運命が皆とそのアイテムを結びつける。使い方は手に取るだけで理解できよう。それが君等のアイテムだ」...
「なんて事してくれたのよ!」
しかし並んで走る唯の口から出たのは罵りの言葉であった。
「はあ?」
「感謝でもしてもらえると思った?これで私たち完全にそのアルベリッヒとかいう奴の敵になっちゃったじゃない。勇者気取りもいい迷惑だわ」
「降伏でもすれば良かったってのか?」
「ええそうよ。そうすれば少なくともこれ以上危険な目に会う事はなかった。ねえそうでしょ?そこの人」
唯は夏菜に同意を求める。しかし夏菜は思わず口篭もる。
「でも、それじゃみんなに嫌われちゃうし」
モゴモゴとそんな事を言った。
「降伏したら、私達は処刑されてました」
ふと、こるりがそんな事を言った。皆こるりを振り返る。
「私じゃありません。私のアイテムがそう言ってます」
こるりは手にしたノートを差し出した。こるりの羽根ペンは未来を予知しその内容を紙に書き出す力があるという。もっとも、それで予知できるのは最悪の未来だけであるらしい。
「東にアルトゥースと言う土地がある」
ディートマルがそう告げた。
「そこへ向かえ。きっと君達を保護してくれる」
「アルトゥースね」
イライラと唯が応じる。
「そこに行けば何とかなるのね。分かったわ。そこまでは付き合ってあげる」
「私の車を使おう」
源藏はにいと笑って見せた。
「トヨタのランドクルーザーW・VXltd。MDコンポに空調完備。カーナビ付き」
「カーナビ、役に立たないと思うけど」
真代が思わず呟いた。...
追っ手は振り切ることが出来たらしい。百馬力もの力で突っ走るモンスターマシンはこの世界には存在しないのだ。
こるりは、ふと今後の自分たちの運命を羽ペンで書き出してみようと思った。
(田中源藏、敵兵の矢に射抜かれて死亡。片山夏菜、恐怖に負け自ら永遠の眠りにつく……)
流石のこるりもこればかりは皆に伝えることを躊躇い、ノートを閉じた。
彼らの旅路はまだ始まったばかりである。
エリアBの0回と1回は、それぞれのキャラクターのプロローグとエピローグの物語でもあるので、読み比べてみると面白いです。特に第0回で、グループアクションで印象的な死に様を見せていたジゼルさん・エマさん・フィオフィさん組や、ルアさん・ノキアさん組などのグループ結成話は、ドラマを感じさせて興味深かったです。
それと、榊マスターが書くリアクションはPCごとの描写量に大きな差があるタイプなので、今回も第0回では損な役回りだった方が大活躍していたり、逆に0回では大活躍だった方が今回は顔見せ程度の登場だったりという例が多いのですが、双方を読み比べると一方が他方を補完する形になっていたりして、少ない描写でも面白く読めます。
0回のクライマックスで破格の大活躍だった大さんは、リアクションの最後にちょっと出てきただけでも「真打ち登場!」って空気が漂いますし、前回での天さんや和也くんの(ちょっと惨めな)最期も、今回のリアクションを読んでから読み返すと深い味わいがあります。
では、そのほかの印象深かった場面などもピックアップします。
エリアBのリアクションは三つに分割されていて、続けて読むと一つのストーリーになる構成になっています。上に引用した「序章 勇者の旅立ち」は第一回リアクション中で一番最初の章の、一番最初のシーンになり、賢者ディートマル(NPC)の魔法によって現代日本から召喚された五人の勇者がアイテムを授かり、国王の軍隊の襲撃を振り切って脱出するというシーンです。
大勢の敵兵が賢者ディートマルの屋敷を取り囲み、仲間同士が諍いを始めるという緊迫した状況なのに、こるりは一人PBMのアクション締め切りを心配をして話の腰を折ったり、アイテムを使って降伏の提案を却下したりしていました。実は、今回のアクションの目的は「PC同士の意見が割れた時に(アイテムを使って)対立の解決を試みる」というものだったので、仲間割れにすかさず割り込んで話の腰を折るという活躍は狙い通りの大成功……と言って良いですよね?
想定していた以上に素敵な描写をして貰えたことは素直に嬉しいです。「5、4、3、2、1……」という締め切りのカウントダウンは、確かにアクションに書いたネタなのですが、今回のような生命の危険が差し迫った状況で使ってもらえるとは思わず、堂々たる天然ボケっぷりに少々びっくり。確かに「自分の命よりもPBMの締め切りのことが心配」と言わんばかりのマイペースぶりは、思い描いていたイメージからそう遠くない描写でしたが、こういう路線ならコメディ型を選択しても良かったかな……?
引用では省略したシーンも、各キャラクターの魅力がたっぷりでした。
アイテムで活路を切り開く真代さん、非協力的な態度で不協和音を演出する唯さん、賢者ディートマルの壮絶な最期に絶叫し涙する夏菜さん、敵兵を蹴散らす源藏さん(の4WD車)。その後も、通りすがりのヒーローといった調子で現れ勇者たちの脱出路を切り開くジェスさんの活躍、そして猟銃を持った欧米人の勇者ザヴィズンさんとの合流……といった手に汗握る描写が続きます。
できればBのリアクションを入手して、読んでみて下さい。
そして、こるりの羽根ペンが導き出す、ちょっぴりブラックなオチの部分ですが、これはアイテムに未来を尋ねた場合の回答例として「そのPCの、(エリアBの)第0回リアクションにおける死亡描写」を希望したアクションの通りでした。第0回ネタは、機会があれば最終回までにもう1、2回は使ってみたいです。
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